2009.11.28

天文 : 富山市科学博物館のプラネタリウム

富山市科学博物館のプラネタリウムを観に行って来ました。この施設は最近プラネタリウムをリニューアルしたばかりで、現在の使用機種は五藤光学の「VIRTURIUM II」 (バーチャリウム II) というものらしい。

この VIRTURIUM II は、複数台のプロジェクターによりコンピュータ・グラフィックスをドームスクリーン全体に投影するデジタル・プラネタリウム。光学式プラネタリウム装置と連携したハイブリッド・プラネタリウムとして運用することも可能なようですが、富山市科学博物館の場合は VIRTURIUM II の単独使用。そして、 VIRTURIUM II のプロジェクターはドームの縁に設置されてているため、ドーム中央に投影装置を居座らせる必要が無く、ドームの中央まで座席を並べてある。平日なのでお客さんは少なく、そのドーム中央の座席を確保することができた。なお、プラネタリウムのドームには傾斜式と水平式があるが、富山市科学博物館は水平式を採用している。

この日見たプログラムは2部構成で、前半が秋の夜空の解説、後半が宮沢賢治の作品を基にした全天周CG番組「銀河鉄道の夜」

まずは「秋の夜空」の解説番組。夕方からスタートし、だんだん日が暮れて夜に。そこで日周運動が止まり、星空解説が始まる。ナレーションによる星空解説に合わせて、星座線や星座絵が表示されたり、消えたりする。

それだけなのだ。

夜空の星はずっと止まったまんまで動かないし、星座の物語に合わせた挿絵やちょっとした動画が表示されるといった演出も無い。せめて、デジタルの特性を活かして星を瞬かせたり、たまに流れ星が飛んだりといった演出を加えるぐらいはしてほしかったが、それも無い。デジタルの特性が一切活かされていない。

この内容であれば、光学式のプラネタリウムでやったほうが遥かに良い。光学式のプラネタリウムでも星座線や星座絵、スライドや動画の表示はできるし、何より、星の表現力では、光学式の方がずっと優れているためだ。

この VIRTURIUM II の星空解説での星空の表現は、とても誉められたものではなかった。恒星の等級差の表現があいまいで、さらに、かなり微光星まで表示しているために、星座の並びがとてもわかり辛いのだ。また、プロジェクター式のデジタルプラネタリウムの宿命ではあるが、シャープさにもやや欠ける。

光学式プラネタリウムは、写真スライド用のプロジェクターに似た仕組みだ。写真スライドにあたるのが、恒星原版と呼ばれる金属板で、これには星の等級に合わせた様々な大きさの微小な穴が開いている。この恒星原版の裏側から光を当て、レンズを通してドームスクリーンに結像させ、投影する。何組もの恒星原版+レンズを用い、全天をカバーする。強力な光源と高精細の恒星原版を用いることにより、明るい星を明るくかつシャープな点として表現することができる。多くの星を投影できるのも特徴で、恒星数が数十万~数百万個に達する機種が最近のトレンドだ。

しかし、プロジェクターやパソコンのモニター、TV等が表現できる輝度には限界があるし、解像度にも限りがある。印刷物の場合は、解像度の点ではプロジェクターやモニターより圧倒的に優れているものの、輝度が限られるという点は同じだ。そして、星の明るさは、1等星と6等星では100倍も違う。限られた輝度や解像度でいかに星の持つ豊かな輝度差を生き生きと美しく表現するか。これは、ずっと昔から、プラネタリウムソフトウェア、天体写真、絵画等にとって大きな課題だった。

限られた解像度でなるべくシャープに見せるには、恒星像を1画素に抑え、画素の明るさの差だけで星の明るさの違いを表現すれば良い。しかし、輝度が限られるため、それでは明るい星は明るさが不足して華やかさに欠けるし、暗い星は暗すぎてほとんど認識できなくなってしまう。

そこでやむを得ず、明るい星をやや太らせて表示するしかない。しかし、やり過ぎると明らかに太って見えるようになり、美しいとは言えなくなってしまう。

そこで、リアルな天文イラストの第一人者の一人、沼澤茂美さんの場合は、エアブラシで個々の星に淡いハロー (にじみ) を描くことによって、星の太り過ぎを抑えつつも、明るい星の光を美しく表現することにこだわっていらっしゃるそうだ。

しかし、今日見た VIRTURIUM II の場合はそういう工夫が足りないようで、微光星の等級差はよく再現されているものの、3等星以上の明るい星の等級差はいまいちあいまいだった。実は、あまりにも見える星が多い場合に星座の形がよくわからないというのは、好条件下で実際の夜空を肉眼で観察した場合でも同様なので、ある意味ではリアルであるともいえる。しかし、星座解説の番組の場合は良いこととは言えないだろう。

天体写真になじみのある方であれば、デジタルカメラでノーフィルターで撮影した星座写真みたいな感じ、といえばイメージして頂けるだろうか。フィルムカメラで星座写真を撮った場合、たとえノーフィルターであっても、明るい星が適度に太り、適度なハローも出て、星の等級差が比較的良く再現される。これはレンズの特性次第でもあるが、フィルムが持つ特性に依存する部分も大きい。しかしデジタル写真の場合、受光素子の特性から、フィルムに比べて明るい星が太りにくい傾向があり、結果として輝度差があいまいな、星座の星の並びがわかり辛い写真になってしまう。

従って、デジタルカメラで星座写真を撮影する場合、星座の形をわかりやすくするため、弱いソフトフォーカスフィルターを用いて撮影することも多い。これはフィルムの場合でも一般的だった手法だが、デジタルカメラの場合は前述の特性があるために、より頻繁に用いられる傾向があるように思う。この手法では、微光星は点像のままであるものの、明るい星が割と大きくにじみ、星の色も強調されて、とても美しい結果が得られる。しかしこの美しさは絵画的なものであり、自然なリアルさという点では今ひとつだ。

そのため、撮影時にはフィルターは用いず、画像処理で適度なにじみを加えるという手法もある。私はこの画像処理によるにじみという手法を好んで用いる。例えば、フィルムによる撮影結果に画像処理を施した例ではあるが、2001年のしし座流星雨の写真がそう。しかし、この手法はちょっとコツも必要なので、あまり一般的ではないかもしれない。私はプログラマの端くれでもあるので、いずれ Photoshop か何かのプラグイン・フィルターとしてこの手法を実装してみたいという気持ちがちょっとあったりするものの、何するのにも手が遅い私なので、あまり期待しないでおいて欲しい(^^; 欲しいという要望が届けばモチベーションがちょっとは上がるかもしれないが・・・w

また、私はプログラマとしてプラネタリウムソフトの製作に関わったことがあるのだが、その際はソフトフォーカスフィルタで撮影した星空に似た表現を表示する機能を手がけた。

以上の理由で、今日見た VIRTURIUM II の秋の夜空の解説番組は、星空の表現の面でも番組内容の面でもいまいちであった。

番組内容については、秋の夜空の解説を一通り終えて、夜明けへと向かう途中、「だいぶ夜もふけて、冬の星座が空高く見えています。秋を代表する流星群の1つが、オリオン座流星群です」→(流星を表示)→「この流星群は、毎年10月21日頃にピークを迎えます」→そしてもう少し時間を進め、「東の空には、春の星座であるしし座が見えています。秋を代表するもう1つの流星群が、しし座流星群です」→(流星を表示)→「この流星群は、毎年11月17日頃にピークを迎えます」。この程度の演出を加えるだけで、だいぶん印象が違ったんじゃないかなぁ。時間的にも、トータルでプラス2~5分程度でできそうだし。

だが、後半の「銀河鉄道の夜」は、素晴らしいものだった。

まず、一羽の白鳥が画面いっぱいに羽ばたき、川の上を低空飛行しながら、橋をくぐる。映画館のような平面スクリーンでは絶対に表現できない、ドーム状の全天周スクリーンという点をフルに活かした映像美だ。右手には汽車も走っている。

やがて白鳥は天高く舞い上がり、天に張り付く。その白鳥を星座のはくちょう座として、ドームの映像は美しい夜空と化す。そして、天の白鳥から1枚の羽毛がひらひらと舞い落ち、カメラを掠める。この夜空の表現は、星が先述のソフトフォーカスフィルターを用いて撮影した天体写真のように美しく滲んでいる。この映像を手がけたKAGAYA氏お得意の表現手法だ。リアルではなく絵画的だが、デジタルプラネタリウムでこそ表現可能な映像美。

あとは、天の川の河畔を走る汽車を追いながら、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」に描写されている各所を巡っていく。随時、夜空の映像に切り替わり、現在表現されている場所が、夜空のどの部分であるのかがわかり易く説明される。

そして最後に、地表に広がる美しい天の川の湖畔の景色全体が空へと舞い上がり、夜空の星と化す。宮沢賢治の描いた世界が、実際の星空の並びに基づくものであることが良くわかる素晴らしい演出。

ちょっと残念だったのは、映像がときどき一瞬止まったり、変なノイズが出たりすることが少なからずあったこと。ただ、個人的にはあまり気にならない程度だとは思った。

最近のプラネタリウムの進歩は目覚ましい。プラネタリウムはもはや単なる学習施設ではなく、ドームスクリーンという特徴を活かした様々な映像美を楽しむことができる娯楽施設でもある。今回見た「銀河鉄道の夜」は、その好例だった。そして投影される作品も、天文関連番組に留まらない。

最先端のプラネタリウム施設は日本全国随所にあるので、もし近年プラネタリウムを訪れたことがなかったら、ぜひお近くのプラネタリウムを訪れてみて欲しいと思う。その日の上映スケジュールを事前に確認しておくことをお忘れなく。

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