2012.07.04

ソフト開発雑記 > プラネタリウム「星風夜」開発 :
プラネタリウム「星風夜MMD」開発雑記

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プラネタリウム「Starry Winds ~星風夜~ for MMD」を作りました。紹介動画およびダウンロードはこちら「星めぐりの歌」PVはこちら

星風夜 MMD の特徴

0630_sw_koinu.jpg 特徴は、何と言っても、高い品質で星空を描画できるという点にあります。恐らくは、一般ユーザーが手軽に利用可能なプラネタリウムソフトとしては、現時点では最高峰の品質だと自負しています。

そして、パラメータやテクスチャの変更により、様々なビジュアルスタイルを利用可能です。冒頭の画像はポップ調 (マンガ調)、左の画像は露出少なめの天体写真調、右の画像はファンタジー調、その全てが「星風夜MMD」による描画結果です。

0630_sw_OrionFantasy.jpg その他、星数を控えた上で星像をもっとシャープ寄りに調整して眼視風にしたり、大気減光処理と瞬き処理を無効にして宇宙空間モードにしたりもできます。また、自作テクスチャも使って頂けますので、目的に応じて個性ある星空を作って頂くことができます。

鑑賞に耐え得るレベルの星空を、目的に応じたスタイルで描画する。一般ユーザー向けのプラネタリウムとしては、映像品質・表現の多様性の両面で、これは多分、世界初のレベルなのではないか、と勝手に思っています。もちろん、MMDの外の世界を含めても。プロユース用としても実用になり得る品質を目指したつもりですので、ぜひ、動画作成やイラスト作成のための素材作りにご活用頂ければ幸いです。

(※ご利用は非商用のみ無償です。商用利用の場合は、まずはご相談下さい。MMDをプロユースに使うというケースは稀だとは思いますが...。)

そもそもMMDって何ソレ?

MMD とは MikuMikuDance の略であり、フリーの3DCG作成ツールです。静止画も動画も作れます。元々は、初音ミクをはじめとするボーカロイド曲のプロモーションビデオの作成を支援することを目的として開発されたツールですが、今では様々な目的に使える汎用3DCGツールとして、日本のアマチュア映像作家を中心に広く使われています。

ニコニコ動画を拠点とする強力なユーザーコミュニティを持ち、3Dモデルやモーションデータ等、豊富な素材がネットで流通しています。よって、自力では素材を作れなくても、既存素材を組み合わせることで手軽な動画作成が可能となっており、3DCGへの入門用としてはとても優れた環境と言えるでしょう。

入門書籍も各種出ているようですので、そちらも参考になるでしょう。

MME って?

MME とは MikuMikuEffect の略であり、MMD を機能拡張するプラグインです。これもフリー。MME を使うと、MMD において HLSL というプログラミング言語を用いた各種のエフェクトが使用可能になります。「星風夜MMD」は、この MME の機能を用いて動きます。

HLSL とは、High Level Shader Language の略で、Windows の DirectX の機能の一つです。これを用いることで、リアルタイム3DCG (ポリゴン) に対して様々な質感や演出の表現を可能とします。

単純に流通しているMME素材を使うだけであれば、深く理解している必要はありません。しかし、プログラミングをして既存のものを改造したり自作物を作ったりするための敷居もまた、さほど高いものではありません。高卒レベルの数学力 (主に幾何学) があれば充分です。下記の通り優れた入門記事がありますので、プログラミングを多少なりともかじってる人は挑戦してみても面白いでしょう。

HLSL の技術面での特徴としては、これはCPUではなくGPU (グラフィックカード) 上で処理されるコードであるという点です。CPUに比べて、処理できる内容には制限が大きいのですが、その制限の範囲内であれば、CPUより圧倒的に高い処理速度で処理してくれます。それこそ、1桁以上も違うレベル。

参考: 高解像度レンダリングのサンプル

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印刷用イラスト作成のための素材作りにも使えるかも、ということで、4000x2250でレンダリングしてみたサンプル (クリックで拡大)。なお、解像度の上限は、ビデオカードのスペックやビデオカードの描画品質設定によって異なるようです。

この解像度でレンダリングしちゃうと、星数が物足りない感じですね。「星風夜MMD」で利用している Tycho-2 星表は約250万星を収録しているのですが、「星風夜MMD」で使っているのはそのうち約30万星。これ以上増やすとMMDでは読み込めなくなってしまうので。でも今時のビデオカードならハードウェア性能的にはまだ余裕がある (※ 今時のビデオカードはマジ化物! 私の使ってるそれはミドルレンジのものに過ぎないですが、それでも凄い性能ですな) のですよ。

「星風夜MMD」開発着手から公開まで

ここから先が開発雑記になります。長文なのでご注意を。

MMDに興味を持ったきっかけ

MMDに興味を持ったきっかけが、この動画。

Nゲージの鉄道ジオラマの実写動画に、MMDを用いて人型キャラを合成してみたという動画です。こうやって動く人型キャラを足すことにより、その世界の存在感が圧倒的に増すんだな、と感動したものです。

そこからプラネタリウムの世界でも同様のことができると面白いだろうな、それも、鑑賞に耐えるレベルの美しい星空が作れれば良いよね、と。これが今年 (2012年) の5/13日の話。

で、もしかするとMMD用プラネタリウムって、既に存在するかも、と思って調べてみた結果見つけたのが、このぺんぎんさんによる星空エフェクト「StellaTheater」。

早速ダウンロードしてソースを読んでみて、ここでMMD+MMEでの開発の概要やその可能性について理解。これを拡大発展する形で行けそうと手応えを得る。この時点ではまだMMD本体の方はダウンロードすらしていなかったり。

開発着手 ~まずは天の川~

開発着手が、6/2日のこと。ぺんぎんさんの星空エフェクトには天の川が無かったので、まずはそれを足そう、と天の川テクスチャを作りかける。Tycho-2 星表の250万の星を全部プロットすればまずまず綺麗な天の川になるかな、と思って試してみたものの...。

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駄目だこりゃ...。ディティール感が足りない。加えて、天の川中心部はもっと明るいはずなのに。この Tycho-2 星表は、11.0等星までの99%、11.5等星までの90%を網羅しており、その均質性が大きな特長のひとつ。ではあるのだけれども、どうやら天の川のディティールを作っているのは、それより暗い星々のようですな。加えて、星間ガスといった要素も絡んでいるのだろうね。

その後、より星数の多い USNO-SA2.0 星表 (約5500万星) を試してみるものの、この星表は均質性が悪く、全く使い物にならないという残念な結果に。大平さんのメガスターはこの星表の不均質性という問題をどう解決してるんだろう? 俺の知らない星表を使ってるのかな? とりあえずは Tycho-2 星表で作った天の川を暫定版として、実際にMMD+StellaTheaterでレンダリングしてみたのが6/5日のこと。

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この日、初めてMMDをダウンロードしてインストールした。

恒星周りの実装へ

その後、恒星周りの実装に入り、6/9日には基本部分の実装を完了。ぺんぎんさんの StellaTheater を参考にはしているものの、内部実装的に結構別物になりました。興味のある方はソースを読み比べて見て下さい。

そして、大気減光や瞬きを実装して、恒星周りの実装は完成。ただ、天の川のクオリティにはやはり難が。

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天の川をハイクオリティ化

星表をベースに天の川テクスチャを作る、というアイデアが失敗に終わったので、より高いクオリティを得るにはもう、実写素材を使うしか無い。ただ、ライセンスの問題はクリアにせねば。

そこで、知るかぎりでは最高のクオリティを持つ PhotoPic Sky Survey に駄目元で画像の使用許可願いを出してみたが、やはり断られた。とあるプロジェクトに使う予定があるので、そのプロジェクトが完成する前は、他のプロジェクトへの使用許可は (たとえ有償でも) 出せない、という話でした。

天の川の全周をカバーしているパノラマ画像はそう多くは無い。残る候補は、欧州南天天文台 (ESO) の天の川パノラマぐらい。

この画像、CC BY 3.0 という、いわゆるクリエイティブ・コモンズ・ライセンスであり、無償で商用も含め比較的自由に使えるものの、クレジットの表示義務という壁がある。ソフトの作り手としては、ソフト内にそのクレジットを表示するのは当然だけれども、そのソフトを使って作った動画や静止画を公開する場合、ユーザーにまでクレジット表示義務が及ぶのかどうか謎だった。もしユーザーにまでクレジット表示義務が及ぶのであれば、ユーザーにとって使い勝手良くないかもなぁ。

そこで、ESOに実際に問い合わせてみたところ、こういう場合のクレジット表示義務はソフト作者までで、ユーザーにまでは及ばないというお墨付きを得て、無事使えることになった。

(※ただし、これは CC BY 3.0 の解釈としてそれが可能という話ではなく、もしかすると CC BY 3.0 ではライセンス上無理だけど、ESO が特例として許可してくれた、という形かもしれない。ESO からの返信文は簡潔なものだったので、その辺は曖昧でした。ESO の画像をソフトに組み込みたい方は、各自でESOに問い合わせて確認したほうが良いと思います。)

早速組み込んでみたところ、何かがおかしい。広角では違和感ないけど、拡大してみると何だかズレてないかい、これ。この画像、銀河座標系にきっちり合わせてあるわけじゃあ無いんだ...。ならば、まずは銀河座標系に合わせるところから作業せねば...。

出来る人なら、星の位置を自動検出させて、自動的に位置補正処理をかけるのだろうけど、残念ながら俺にはそこまでのスキルが無い。よって、Photoshop のパペットワープ機能を使って、手作業でちまちまと位置合わせ...。

どう頑張っても完全には合わないんだけど、まあなんとか使えそうなレベルまでは合わせた。星が点像のままだと、拡大した際に解像感を損なうので、輝星を消去し、最後にボカシをかけて、ディティールを大きく損なわない範囲で滑らかな雲のような天の川テクスチャに仕上げ、無事完成。6/13日のこと。

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デモ動画の作成と公開

その後、「星めぐりの歌」PV (PV作成記はこちら) の作成に入り、それが完成して、「星風夜MMD」v0.6 本体と併せて公開したのが6/17日のこと、さらに、紹介&使い方説明動画が完成して、「星風夜MMD」v0.6c 本体と併せて公開したのが6/28日のことでした。

YouTube版 YouTube版

ぶっちゃけ「星風夜MMD」本体よりはデモ動画作りが大変だったかも。そもそも3DCGツールを扱う事自体がほぼ初めてだったので。モデリングソフトは少しは触ったことはあるけど、動画作成となると、DoGA-L1 (なつかしす!) を少し触ったことがあるという程度でした。

「星風夜」の前身、「SkyExplorer」

このように約1ヶ月弱の開発期間で形になった「星風夜MMD」だったけれども、ここに至るまでの道のりは実はものすごく長かった。

こちらは、「星風夜」の前身、「SkyExplorer」 です。2000年か2001年、学生時代に作った Windows 用のアプリですね。その年の学祭で天文部の展示物として使いました。機能としては、恒星を描画するだけというシンプルなもので、星座線も、天の川もありませんでした。が、恒星描画に関してはこの時点で完成の域に達していたかと思います。

それから10年以上、それ以上の開発を行なうこともなく放置していて、でもいつかは世に出したいとはずっと思い続けていて、それを今回「星風夜MMD」としてようやく世に出せましたね。私にもっとやる気があればもっと早く、また別の形で世に出せていたかもしれませんが、ようやく世に出せてほっとしています。

プラネタリウムソフトの開発に興味を持ったきっかけ

物心ついた頃には既に我が家には10cmの反射望遠鏡がありました。小さい頃に皆既月食を観て、月が消えるのかとおもいきや真っ赤になったのが強烈に印象に残っていますね。

そして、宇宙への興味を決定づけたのが、NHKスペシャル「銀河宇宙オデッセイ」(1990年) だったことは間違いないでしょう。超高感度カメラで撮影された宇宙のカラー動画に感動したものです。

ですが、プラネタリウムソフトの開発...となると、そのきっかけはよくわからんです。んー、FM-TOWNS のプラネタリウムソフト「ハイパープラネット」 の美しさ (※ 久々に見たいと思って検索してみたけど、スクリーンショットも動画も全く見つからず) に度肝を抜かれたのは覚えています。手近に TOWNS が無くて、雑誌でスクリーンショットを見てるだけでしたが。

その後、プラネタリウムソフトはきっとどんどん美麗になっていく、と信じていましたが、実際のところ、そうでもなかった。プラネタリウムソフトは、別の呼び方では、天文シミュレーションソフト。すなわち、天体の位置などを精密にシミュレートすることが第一であり、見た目なんか所詮、アイコンに過ぎないのですから、それは仕方がないこととは言えますが。

で、綺麗さに感動できるようなプラネタリウムソフトって、私はほとんど知らないです。もちろん、そこそこ綺麗なものはあるんですよ。「Stellarium」とかね。でも、感動できるレベルに達しているとは思えない。

割と最近出た、国産商用アプリの「STELLARWINDOW」は相当に頑張ってるのはわかるんだけど、星像がちょっと記号的で、美しいと思うにはもう一步足りない印象。

そんなわけで、美麗なプラネタリウムソフトが無いなら俺が作ったる、というのが開発動機になっています。

ただ、最近出た、Mac用の「Cosmographia」は正直素晴らしい。

この「Cosmographia」「Celestia」の作者の新作という話です。

あとは、iOS の「Luminos」なんかも良いですね。これは iOS 用としては少々高価なアプリですが、その価値はあるかと。

そしてMMDへ

0630_sw_orionRising.jpg 結局、これまで私のプラネタリウムを形に出来ていなかったのは、描画周り意外の部分が大変だからです。ちゃんとしたプラネタリウムアプリとして、販売に耐える形にするには、星さえ綺麗に描画できれば良いってもんじゃない。月・太陽・惑星の位置計算はちゃんとシミュレートしなきゃいけないし、UIも作りこまなきゃいけないし。その大変さを考えると、なかなか着手には至らず、ずるずると。

その点、MMDの場合は、動画の背景としての利用やイラスト素材作り用としての利用という形態ですから、星さえ綺麗に描画できれば、それで実用品ということになります。この意味で、作りやすかったんですね。

そして、それを可能にしたのが、MMDのプラグインである MikuMikuEffect (MME) です。本来、MMDではユーザー作成の HLSL コードを走らせる機能が無いのですが、MME では、API Hook という技術を用いて、MMD の描画処理に強引に割り込む (なんという!) ことにより、MMD でユーザー作成の HLSL コードを走らせることを可能にしています。

「星風夜MMD」は、ツールである

「星風夜MMD」は、目的に応じた星空を生成するためのツールとして作りました。ツールであるということはすなわち、映像の作り手の要求に応える、映像の作り手の個性を尊重する、ということです。

あるべき星空の姿は、目的に応じて異なります。2Dアニメ、3DCGアニメ、実写主体の映像作品など。それら全ての要求に対応できるようなものを目指しました。

そのために、スタイルが異なる各種の高品質なテクスチャ素材を同梱しましたし、ユーザー側で自作したテクスチャを使うこともできるようにしています。

「星風夜MMD」を色んな人に使って頂けることは嬉しいことですが、しかしその結果として、似たような調子の星空ばかり見かけるようになってしまってはつまらないとも思います。ぜひ、自分の個性を活かした星空作りに取り組んでみて下さい。星や空の色調をいじるだけでも、印象って違ってきますよ。

プラネタリウムソフト開発の技術面のお話

これは3DCGの初歩の初歩

月・太陽・惑星等の位置計算をやろうとすると、ややこしい話にはなるのですが、とりあえず恒星の位置を再現するだけなら、これは3DCGの初歩の初歩に過ぎません。

恒星の位置情報は、星表データにおいては、赤経・赤緯という2つの値で表されています。これは、地球上で言う経度・緯度の天球版です。この赤経・赤緯を三角関数を用いて3次元の方向ベクトルに変換し、あとは、カメラの位置や角度を考慮して、カメラから見た座標に変換 (これは単なる3次元回転処理) した上で、最後に投影変換 (星とカメラとを結ぶ直線と、画面 (=平面) との交点を求める) により画面上でのXY座標を求めれば良いのです。

そうやって求めた表示位置に、等級に応じた星像をプロットしてやれば良い。

等級差の表現については、1等級違えば、その明るさは約2.5倍違う。5等級違えば、ジャスト100倍違う。基本、これだけの話に過ぎません。

見栄えを決定付けるのが、星像の作り方や、背景の空の色の作り方になります。

明るさの表現の違いには、2種類のアプローチが考えられ、1つは、単純に描画色の明るさの変化として表現すること。ただし、それだけでは星の幅広い輝度を充分に再現することはできないので、輝星についてはその像を太らせることにより、明るさを再現します。

「星風夜MMD」においては、基本的には、星像の大きさで明るさの違いを表現しています。1等級の明るさの違いを描画面積の違いとして表現するなら、半径の違いは1等級につき 2.5 の平方根、すなわち約 1.6 倍違う、という処理です。

微光星については、半径が1ピクセルを下回るようであれば、描画色を暗くした上で半径1ピクセルの像として描画しています。

そして、輝星については、素直に1等級につき 1.6倍 していくと極端な大きさになるので、適切な形で半径を圧縮する処理を加えています。これは、天体写真の処理に用いられるアルゴリズムの応用です。「星風夜MMD」においては、輝星の大きさを調整するパラメータがありますが、これはこの半径圧縮の処理のパラメータを変えているということになります。よって、輝星をシャープ気味に調整しても、大き目に調整しても、どちらも計算上は間違いというわけでは無かったりします。

あとは、星像に使うテクスチャ作りに凝ることにより、「星風夜MMD」ではこれだけの高品質を実現しています。

0630_sw_subaru.jpg 処理そのものはかなり単純ですね。違いを生むのは、プログラミング技術と言うよりは絵作りへのこだわりであり、天体写真をやってきた経験が活きていると思います。

もう少し凝った方向性としては、HDR 処理というアプローチもあります。HDR とは、High Dynamic Range の略。リアルタイム3DCGの世界では、昔は色情報を 1 ピクセルあたりRGB各 8 ビット=256 段階で扱うことしかできなかったのですが、最近ではハードウェア性能の進化により、RGB各 10 ビット=1024段階 (※ Xbox 360 限定かな?) や、16 ビット=65536段階 (※ PC用ビデオカードではこちらが一般的) として処理をすることも実用的になってきています。そして、このようにRGB各 8 ビットを超える階調を扱って画像をレンダリングすることを、HDR 処理と言います。

(※ これは3DCGの世界での定義です。デジタルカメラの世界においては、多段露出した画像を合成して、より広い階調を表現することを意味します。)

デジタルカメラのRAW現像処理をご存じの方ならば、カメラのRAWデータは8ビットを超える階調データを持っていて、それをRAW現像処理により 8 ビットに圧縮しているということをご存知でしょう。3DCGにおける HDR 処理とは、このRAW現像処理 (に、似た処理と言うべきか?) を3DCGに適用する、というアプローチのことです。これにより、より自然な陰影や、光の描写が可能になります。

MMD においては、そぼろさん作の AutoLuminos というエフェクトを用いることにより、この HDR 処理を利用することが可能になります。ただし、現段階での「星風夜MMD」においては、この処理を考慮した作りとはなっていません。将来的には HDR への最適化も面白そう (※ プロユース向けに、より本格的な3DCGソフトのための星風夜を作るなら必須技術でもある) ですのでやってみたいですが、現段階でも充分な画質が得られていると思いますので、後回し。

究極的には、レンズに入ってセンサーに届くまでを光学シミュレーションにより再現する、なんていうアプローチもあり得ますが、処理が重くなるでしょうし、それにより必ずしも結果がより美しくなるというわけでも無いように思えますね。よってこのアプローチには私は興味がありません。(※ そもそも私のスキルでは無理というのもある)

瞬きにこだわりあり

動画としてみた場合に、その印象を高める上で重要なのが「瞬き」です。瞬かない星は寂しいですよね。

この「瞬き」、結構奥が深いんですよ。ただのランダムではあまり綺麗には見えない、しかしサインカーブのように一定の周期で瞬かせても面白く無い。

そこで、「星風夜MMD」においては、数回瞬く毎に瞬きの周期や振幅をランダムに変える、という形で瞬きを実装しています。

(※ 難しい処理ではないですが、印象への影響が大きい部分です。また、星以外でも、点光源であれば応用が効きます。もし商用のソフトや動画作成でこの処理を参考にしたい場合は、技術提供料を頂けるとありがたいかな。)

この処理は HLSL では実装が難しかったので、予めテクスチャデータとして瞬きテーブルを持っておき、そのテーブルを HLSL で参照する形で実現しています。

実際に星をビデオで追尾撮影して、そのビデオ映像から瞬きパターンテーブルを作る、というアプローチも面白そうです。

ちなみに私は天体写真や微速度動画もやる人ですので、天体写真や微速度動画の星を瞬かせることができる「Kagayaki フィルター」も配布中です。瞬きアルゴリズムは、「星風夜MMD」と同様。こちらもよろしければご利用下さい。

その他のこだわり

「星風夜MMD」 においては、大気減光を考慮しています (※ ただし、大雑把な近似処理であり、精密ではない)。これは、地平線に近づくほど、大気による吸収により、星の明るさが暗くなり、また赤みを帯びた色になる、ということです。これも、星空を自然に見せる上では重要な要素ですね。

大気による屈折に伴う浮き上がりも、近似的な実装は容易だとは思いますが、あえて実装はしていません。見栄えの上ではあまり関係ない処理のように思えますので。

恒星位置を厳密に求めるには

恒星の位置は、今も昔も大きくは違いませんが、それでもすこ~しづつ変わってきています。恒星そのものの移動に伴う変化 (固有運動) もありますし、地軸の歳差運動に伴う天の北極の移動もありますし、また、地球の公転に伴い、見かけ上の位置がわずかにずれる (年周視差) という要素もあります。

「星風夜MMD」においては、こういった要素は無視しています。よって星の位置は厳密に正確というわけではありません。また、変光星の変光という要素も無視しています。

要するに、美麗な星空を作り出すツールではあっても、天文シミュレーションソフトでは無いということです。この点にはご注意下さい。

最終的には、収入を得ていくことが目標

ここ数年ぐらいは、縁あってとあるマイナーなゲームの開発や運営に関わって、多くはないものの安定した収入を得てなんとか食ってきたものの、それも今年の初めに終わりになり、今はバイト程度の仕事しかしてない俺です。プラネタリウムソフトであれば、高品質なものを作れる自身があるので、それで収入を得ていければ嬉しいかな、と。

なぜ、美麗さにとことんこだわったプラネタリウムソフトは希少なのか

美麗なプラネタリウムソフトを作る上では、プログラミング技術の上では特別に難しい技術は必要とされず、こだわりさえあれば品質向上を図れるわけですが、それではなぜ、美麗さにとことんこだわったプラネタリウムソフトは希少なんでしょうか。

ひとつにはもちろん、既述のとおり、天文シミュレーションソフトというジャンルにおいては、見栄えへのプライオリティが低いという点があります。本格的な天文シミュレーションソフトを買って使うような層はいわゆる天文ファンであり、そのソフトに求められるのは、そういったファンが実際に天体観測を行なう上で役立つということです。そして美麗さは、必要性の薄い要素です。

そもそも、美麗なプラネタリウムソフトへの需要って、少なくともPC用ソフトとしては、無いのかもですね。これは、私の想像に過ぎず、根拠のある話ではないんですが...。

ガチな天文ファンは必ずしも美麗なプラネタリウムソフトを求めてはいません。美麗なプラネタリウムソフトを望むのは、むしろ天文ファンではない一般層なのかもしれません。

でも、皆さん、PCに色んなソフトを買ったりダウンロードしたりして入れて楽しんでます?

私は正直、そうじゃないです。基本、趣味や仕事の上で必要なソフトしか入れてないですし、使わないです。そして、そういう人が多いんじゃないかと思います。PCがまだ珍しかった時代ならともかく、今の時代では、PCとは、各自が必要性に応じた範囲内で使う道具に過ぎないんじゃないかと思ってます。だから、必ずしも必要がない、娯楽用のソフトを入れて楽しむ、という人は少ないような気がします。

私も昔はPCでゲームをよく遊んだものですが、最近ではそれもあまり。俺好みのゲームってあまり出ない世の中になってしまったし。もちろん、今でもPCでゲームをやってる人は少なからず居るんでしょうけど、各自、遊ぶジャンルやタイトルはほぼ固定化していて、色んなジャンルの色んなゲームを遊ぶ、という遊び方ではなくなっている気がしますね。これも想像に過ぎないですが。

ハード性能的な壁も大きいでしょう。美麗さをとことん追求するには、比較的新しいビデオカードの性能を積極的に活用する必要があります。が、そうしてしまうと、動かないPCが多数出てきてしまう。3Dゲームユーザーであれば、それなりのPCを用意するのは常識ですから、問題は少ないです。しかし3Dゲームユーザーではない一般ユーザーのPCとなると、安いノートPCで充分という人が多いでしょうし、それも、古いものをずっと使っているケースが多い。そういうPCではビデオカードの性能なんて底辺であるわけで。

だから正直、PC用の一般ユーザー向けの製品として美麗なプラネタリウムソフトを作るというのは、商売としては難しい気がしています。

ただし、iOS用など、携帯端末向けとなるとまた話は別です。特に iOS 用ならハードウェアの種類も限定的で、3D性能も結構ありますし、ユーザー数も多いですし、色んなアプリを入れて楽しむというスタイルも普通なので、高品質なアプリならそれなりの売り上げを見込めるかも、と思ってます。いずれ実現したいところ。

映像制作者相手ならきっと需要あり?

一般のPCユーザーにとっては、美麗なプラネタリウムソフトへの需要は少ない、という話をしましたが、映像制作者が相手となると、また話は別でしょう。映像制作者は、美麗なものを求めますし、星空というのはポピュラーな映像要素のひとつです。

ただし、本格的な星空映像を必要としている映像制作者は、そう多くはないのかもしれません。映画やアニメの中で、星空はよく登場するものの、そのほとんどがランダムな星の並びを用いています。技術的には、やろうと思えばできることですし、実際、そうしている作品も少ないながら存在しています。

例えば、NHK大河の「毛利元就」、懐かしのドラマ「白線流し」、天文部アニメ「宙のまにまに」といった作品は、リアルな星の並びを再現した映像を積極的に用いた例です。ピンポイントでリアルな星の並びを再現した作品はもっと数が多いようで、私が見た中では、アニメ「とらドラ!」の星空が秀逸 でした。

しかし、こういった例はあくまで例外的であり稀です。多くの作品においては、リアルな星の並びは用いられていません。できることをやらない、というのは、その必要がないからそうはしない、ということなんでしょう。技術的にはそう難しくはないとはいえ、そうするためにはある程度の追加の予算と時間が必要になるでしょうから、コストに見合った意味が無い限りはやらないでしょう。

でもね、それは、各制作者が自力でそうしようとした場合の話。

プロユースに耐え得るような、本格的な星空映像を生成できるツールが、利用しやすい形で存在するとしたら? それを使ってみようと考える映像制作者が出てくるかもしれません。

そこに希望を託して、将来的には、Blender など、プロユースに使われるような3DCG向けの「星風夜」も作ってみたいと思います。あまり数は出ないとは思いますが、プロユースなら高い単価で売れるかもしれませんので。

(※ 大平さんに先越されないことを祈る。あの人が相手では、はっきりいって技術力では全く太刀打ちできないぞ~! 3DCGとしての星空映像作りのノウハウも、ツール作りのノウハウも持ってますし、エンターテインメントとしてのプラネタリウムの可能性を追求してる方でもありますからね。)

でもMMD版は恒久的に非商用無料

MMDユーザーの皆さんの中にも、このレベルの星空なら有償でも使いたい、と思って下さる方が、もしかするといらっしゃるかもしれません。でも、そう数は出ないでしょうし、収入として充分なレベルになるとは思えないんですよ。

それならいっそ無償公開して、幅広く使ってもらったほうが嬉しい、というわけで非商用無料という形で配布させて頂いています。

将来的に商用3DCGツール向けの「星風夜」を作るとしても、MMD版の無償公開によりその需要が減るわけではないでしょうし、むしろ宣伝になって良いかな。と。

ちなみに、非商用無料とはいえ、いわゆる「振り込めない詐欺」ではございません。万一、寄付したいという奇特な方がいらっしゃいましたら、謹んでお受けさせて頂きたいと思います。正直、生活苦しいですので、少額でもありがたいです。まずはご連絡下さい。

プラネタリウム・ドームスクリーンにミクさんを♪

これは動画の中でも触れましたが。現時点では妄想に過ぎません。現段階では、先例は無いようです。(ただし、ミクさんの歌声を使ったプラネタリウムイベントの実例はあり。ミクさんは映像としては登場しなかった...のかな?)

が、いずれ、何らかの形で必ず実現することではないか、と思っています。何せ、NHKの「宇宙の渚」にミクさんが登場する時代ですからね!

こちらは、『宇宙の渚』プロモーション動画コンテストの最優秀作、「旅人」×「宇宙の渚」です。ストーリー性あふれる見事な作品! この作品の使用曲は、ミクさんが歌う「流星DANCE」だったりします。その他の受賞作や応募作は、『宇宙の渚』プロモーション動画コンテスト 結果発表ページ をご参照下さい。

ミクさんのプラネタリウム・ドームコンサートはいずれ必ず誰かが実現することだとは思います。それに俺が関われるかどうか、となると、それはわからないですが、そうなると嬉しいな、と。

そのためには、まずはMMDでドームスクリーン対応の円周魚眼映像を作る道を探らねば。思考実験の上では、不可能ではなさそうな気がしています。

ようやくスタートライン

というわけで、プラネタリウムソフト開発技術の収入化を目指した第一歩がようやく踏み出せた感じ。収入化への道はまだまだ長いですが、きっとこれが俺の生きる道...だと思いたい。

次は、やはり iOS 用のプラネタリウムアプリの開発かな。ライバル多いですが、少なくとも見栄えの面では凌駕する自身があります。

天文ファンにとっては興味薄い?

お陰様で、ニコニコ動画では好評を頂いてますが、Twitter の反応とか見てると、天文ファン (天体写真系の人や、天文学系の人たち) からの反応が薄い印象がありますね。

しかし、これは正直、想定の範囲内ではあります。天文趣味の分野では、映像作品作りというと、実写の天体写真や微速度動画が主体で、CGやイラストの制作に本格的に取り組んでいる人は、少数のプロを除けば極めて限定的な気がします。

天文ファン以外にとっては、星空を題材としたCGやイラストはポピュラーな分野だとは思いますが、作り手が天文ファンというわけではないために、リアルな星の並びの再現までやってる例は皆無に近いかと。

実は月刊「星ナビ」のギャラリーコーナーはいわゆるフォトコンテストではなくて、CGやイラストの応募も受け付けています。創刊当初の頃は、とても印象的なイラストを投稿してる方がいらっしゃったのですが、最近ではすっかり写真オンリーになってしまいましたね。

過去には「星ナビ」ではCGによるイラスト作りの楽しみ方を紹介した特集もありましたが、定着するには至らず。

「星風夜」の登場により、天文趣味の一環としてのCGやイラスト制作がもっと普及することに繋げられれば面白いかな、と思ってます。

というわけで「星ナビ」さん、もう一回イラスト作り特集やりましょうよ! 表紙にばばーんとミクさんにご登場頂いてw 一度、デモを兼ねて「星ナビ」さんにご挨拶に行かねば。10年ぐらい顔出してないですし。

この長文記事を最後まで読んでいただき感謝です。

Category: プラネタリウム「星風夜」開発

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