2012.11.10

エンターテインメント : 新海誠「秒速5センチメートル」ラストシーンに共感

新海誠監督のアニメ映画「秒速5センチメートル」をレンタルで観ました (感想、レビュー)。3つの連作短編から成る約60分の作品。このわずか60分の中に、小学校時代の出会いと別れ、そして大人になってから再会するまでの長い長い物語が凝縮されています。タイトルの「秒速5センチメートル」とは、「桜の花びらが舞い落ちる速度」を意味するのだそうです。そのラストシーン、賛否両論あるようですが、私は力強く共感し、元気をもらえたような気がしました。本記事のこの先は既に見た人向けの内容になります。ネタバレ注意。

全3編中の1編目は、小学生時代の別れ、2編目は、疎遠になってしまった高校時代。そして3編目は大人になってからの再会を描いています。その3編目は、ストーリー作品にはなっておらず、山崎まさよしの「One More Time, One More Chance」を用いた音楽PV形式となっています。

なお、上記に貼った映像は、映画本編のものとは別編集版。おそらくはセルDVDの特典映像ではないでしょうか。レンタルDVDにはこの特典は収録されてなかった。ぜひブルーレイ買いたい。

で、本題のラストシーン。

あそこできっと、彼は気付いたのですよ。

自分はずっと、今でも、彼女のことを好きだと思っていた。

でも、そうじゃなかった、と。

何故なら、再会したと思った彼女は、自分が思っていた通りの彼女ではなかった。

つまり、これまで自分が好きだと思い続けてきた彼女は、自分の想像により作られてきた幻影に過ぎず、彼女本人ではなかった、と。

2話のあの異星のイメージ。きっとあれがその象徴だったんですね。

そして、ずっと抱き続けてきた気持ちの虚構性に気付いたとき。

彼はきっと気付いたんですよ。

少なくとも、あの別れの際に、
彼女のことを好きだと思ったあの気持ち。
それは確かに真実だったんだと。

そうやって彼は、小学生当時の彼女と再会を果たしたんです。

そして、別れの際に聞いたあの言葉を再び聞いた。

「あなたは大丈夫」

(私は大丈夫だから)

と。

そしてこう思った。

(俺は大丈夫なんだ)

と。

それがあの笑顔に繋がったんだと思います。そうやって、彼はその瞬間に、大人になった。

何だかよくわかる気がしますね。視聴者である俺も、俺は大丈夫なんだと思えた。元気をもらえた気がします。切な過ぎる作品とも言われますが、俺はとても力強い作品だと思いました。

本作には、"a chain of short stories about their distance" というサブタイトルがあります。意味としては、「彼らの距離に関する連作短編集」といったところでしょうか。しかし "chain" には「繋がり」すなわち「連作」という意味もありますが、「鎖」という意味もあります。

なので本作は、「鎖となって人を束縛する過去の思い出と、その鎖からの開放の物語」ということになりますね。なお、この点に関しては、俺の解釈というわけではなく、コミック版の帯に書いてあったことです。コミック版2巻帯より引用:

奇跡のような初恋は、人生を照らす灯りとなり、
時に歩みを縛る鎖となり、記憶から消えることはない。
そうして大人になった二人は今、東京にいる。

コミック版は、清家雪子さんによるもので、全2巻 (アフタヌーンKC)。こちらも読んでみたのですが、原作映画では抽象的だった部分がうまく補完され、ストーリー作品として分かりやすいものに仕上がってます。映画見てピンと来なかった人には、理解の助けになるかも知れません。

ただ私は、コミック版は原作とはやはり別物だと思いました。

この映画はその抽象性が非常に重要なファクターになっていて、舌足らず故に、視聴者がそれぞれ自由な想像を巡らす余地がある。そしてこの映画は、映画の登場人物達は決して、本当の主人公では無いのです。この映画はいわば視聴者の思い出への扉であり、視聴者こそが主人公なんだと思います。

この点に関しては、Amazonで見つけたレビューが実に的確だったのでぜひご一読を:

本作は、映像面では背景美術が極めて写実的かつ精巧ある一方で、キャラの絵柄はシンプルです。これは多分、本作におけるキャラがアバターすなわち視聴者の代理であるからなのかも知れません。単純化・抽象化された絵柄であればこそ、劇中のキャラを自分や身近な人のことのように思い易いのでしょう。

なお、私はコミック版はコミック版で好きです。映画の方は、男性監督が男性の気持ちを表現したものですが、コミック版は女性漫画家によるコミカライズですので、少し違った視点になっているんだと思います。

この他の関連作としては、新海誠監督本人によるノベライズ小説と、加納新太さんによる別視点の小説「秒速5センチメートル one more side」があるようです。私はこれらの小説版は未読ですが、ぜひ読んでみたいですね。

Category: エンターテインメント

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